「夫婦なのに、もう何年も性交渉がない…これって『セックスレス』なの?」「セックスレスが原因で離婚したいけど、そんな理由で認められるの?慰謝料は?」
夫婦間の性交渉に関する悩みは、非常にデリケートで、誰にも相談できずに一人で抱え込んでしまうことが多いものです。特に、セックスレスが離婚の原因となり得るのか、慰謝料請求は可能なのかといった法的な問題は、多くの不安を生むでしょう。
しかし、ご安心ください。セックスレスは、夫婦関係において真剣に向き合うべき問題であり、場合によっては法律上の離婚原因となることもあります。そして、あなたが抱える疑問や不安を解消し、適切な解決策を見つけるための情報は、ここにあります。
この記事では、セックスレスの具体的な定義から、それが夫婦関係や離婚に与える影響、そして慰謝料請求の可否と相場まで、法的な観点から徹底的に解説します。さらに、セックスレスが原因で不倫してしまった場合の慰謝料問題や、離婚を検討する前に試すべき解消法についても詳しくご紹介。この記事を読めば、あなたはセックスレスに関する悩みを具体的な行動へと繋げ、納得のいく未来を築くための第一歩を踏み出せるようになるでしょう。ぜひ最後までお読みください。
セックスレスとは?その定義と夫婦関係への影響
夫婦生活において、性交渉は二人の絆を深める重要な要素の一つです。しかし、何らかの理由で性交渉がない状態が続く「セックスレス」に悩む夫婦は少なくありません。この問題は非常にデリケートであるため、夫婦間でも話し合いがしにくく、一人で抱え込んでしまいがちです。ここでは、まずセックスレスの一般的な定義と、それが夫婦関係にもたらす様々な影響について解説します。
セックスレスの一般的な定義
セックスレスには明確な法律上の定義があるわけではありませんが、一般的には、「夫婦間に性的接触がない、または極めて稀な状態が、正当な理由なく1ヶ月以上続いていること」を指すことが多いです。日本性科学会は、「1ヶ月以上、性交渉がないカップル」をセックスレスと定義しています。
この定義において重要なのは、「正当な理由なく」という点です。例えば、以下のような状況は、一時的なものや双方の合意があるため、必ずしも「セックスレス問題」とはみなされません。
- 病気や怪我:夫婦のどちらかが病気や怪我で性交渉ができない期間。
- 出産前後や育児期間:妊娠中や産後、乳幼児の育児で心身の余裕がない期間。
- 単身赴任:物理的に同居しておらず、性交渉が不可能な期間。
- 双方の合意:夫婦双方が性交渉を必要としておらず、お互いが納得している場合。
しかし、上記のような明確な理由がない、あるいは一方のみが性交渉を拒否している状況が続く場合に、セックスレス問題として認識されることになります。
セックスレスが夫婦関係にもたらす影響
性交渉の有無は夫婦関係の全てではありませんが、セックスレスが長期化すると、夫婦関係に様々な影響を及ぼす可能性があります。
1. 精神的なすれ違いと孤独感
性交渉は、夫婦間の愛情や絆を物理的に確認する大切なコミュニケーションの一つです。それが失われることで、以下のような精神的な影響が生じることがあります。
- 愛情の欠如:性交渉の拒否が、「自分はもう愛されていないのではないか」という不安や、夫婦としての愛情が失われたのではないかという疑念につながることがあります。
- 孤独感:性的な欲求が満たされないだけでなく、デリケートな問題であるがゆえに相手にも相談しにくく、一人で悩みを抱え込むことで強い孤独感を感じることがあります。
- 自己肯定感の低下:性交渉の拒否が続くことで、「自分には魅力がないのではないか」と自己肯定感が低下してしまう人もいます。
- 不満の蓄積:性的な不満が解消されないまま蓄積され、それがイライラや不機嫌といった形で日常のコミュニケーションに悪影響を及ぼすことがあります。
これにより、夫婦間の心の距離が広がり、信頼関係が揺らぐ原因となることがあります。
2. コミュニケーションの希薄化
セックスレスは、性交渉だけの問題にとどまらず、夫婦間のコミュニケーション全体に影響を及ぼすことがあります。
- 会話の減少:性交渉の話題を避けるようになるだけでなく、デリケートな問題に触れることを恐れて、その他の会話も減ってしまうことがあります。
- 誤解や不信感:性交渉の拒否の理由が相手に伝わらないことで、「相手に他に好きな人がいるのではないか」「自分に魅力を感じていないのか」といった誤解や不信感が生まれることがあります。
- 家庭内のギクシャク:夫婦間のコミュニケーションが不足することで、日々の生活の中でも些細なことでギクシャクしやすくなり、家庭全体の雰囲気が悪くなることもあります。
性交渉は夫婦の絆を深める要素の一つであり、それが欠けることで、夫婦間のコミュニケーション全体が希薄になり、関係性が冷え込んでしまうことがあります。
3. 他の異性への意識や不倫のリスク
性的な欲求が満たされない状態が長く続くと、その欲求が他の異性に向いてしまうリスクが高まります。
- 不倫への誘惑:夫婦関係の中で性的な満足感が得られない場合、精神的・肉体的な充足感を外部に求めてしまい、不倫に走るきっかけとなることがあります。
- 倫理観の低下:セックスレスの状態が「夫婦関係は破綻している」という認識を生み、不倫に対する罪悪感が薄れてしまうことも考えられます。
これは、セックスレスが直接的な不貞行為の原因となる可能性があることを意味します。この点については、後ほど「セックスレスが原因で不倫した場合の慰謝料請求について」のセクションで詳しく解説します。
4. 離婚への意識の高まり
長期にわたるセックスレスは、最終的に離婚を意識するきっかけとなることがあります。
- 夫婦関係の破綻:性交渉がない状態が「夫婦としての関係が破綻している」と感じる要因となり、離婚を真剣に考えるようになることがあります。
- 将来への不安:「このまま性交渉のない夫婦関係が続くのか」「子どもをもうける望みがなくなるのか」といった将来への不安が募り、離婚という選択肢を考えるようになるケースもあります。
このように、セックスレスは夫婦関係に多方面から影響を及ぼし、放置すれば深刻な問題に発展する可能性があります。しかし、セックスレスは離婚の直接的な理由となるのでしょうか。次のセクションでは、セックスレスと離婚の法的な関係について詳しく掘り下げていきます。
セックスレスは離婚理由になる?法的な「悪意の遺棄」とは
セックスレスは夫婦間のデリケートな問題でありながら、長期化すると離婚の原因となり得るのでしょうか。法律上、性交渉がないこと自体が直接的に「離婚理由」として認められることは稀ですが、その状況によっては「婚姻を継続しがたい重大な事由」や「悪意の遺棄」とみなされ、法定離婚原因となる可能性があります。ここでは、セックスレスと離婚の法的な関係、そして慰謝料請求の可否について解説します。
セックスレスが離婚原因となり得る場合
日本の民法では、離婚原因として具体的にセックスレスを挙げていません。しかし、民法第770条第1項第5号に定められている「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると判断されれば、離婚が認められる可能性があります。
- 性交渉の義務:法律上、夫婦には「同居・協力・扶助義務」があり、これには夫婦間の性生活も含まれると考えられています。性交渉は夫婦の絆を維持する上で重要な要素とみなされているため、正当な理由なく性交渉を拒否し続けることは、この義務に違反する可能性があります。
- 長期間のセックスレス:一時的なセックスレスであれば離婚原因とはなりませんが、正当な理由がないにもかかわらず、長期間(一般的には1年以上、状況によっては数年)にわたって性交渉がない状態が継続している場合は、「婚姻関係が破綻している」と判断される要素となります。
- 解消に向けた努力の有無:重要なのは、性交渉がない状態に至った経緯と、その解消に向けて夫婦双方がどれだけ努力したかです。一方的に性交渉を拒否し続け、話し合いにも応じない、努力を一切しないといった姿勢は、婚姻関係破綻の原因とみなされやすくなります。
- 具体的な状況証拠:裁判でセックスレスを離婚原因として主張する場合、以下のような客観的な証拠が必要になります。
- いつからセックスレスになったかの記録(日記、メモなど)
- 性交渉再開を求めたが拒否されたことを示すメールやLINEのやり取り
- 話し合いを試みた記録(夫婦カウンセリングの記録など)
- 医師の診断書(性機能障害がないことの証明など)
単に「性交渉がない」という事実だけでなく、「なぜ性交渉がないのか」「性交渉再開に向けて努力したのか」といった背景が総合的に判断されます。
悪意の遺棄とセックスレスの関係
セックスレスが、民法上の離婚原因である「悪意の遺棄(あくいのいき)」に該当すると判断される可能性もゼロではありません。悪意の遺棄とは、夫婦の「同居・協力・扶助義務」を正当な理由なく果たさないことを指します。
- 同居義務:夫婦は基本的に一緒に生活する義務があります。
- 協力義務:夫婦が互いに協力し合って生活を営む義務です。
- 扶助義務:経済的、精神的に助け合う義務です。
性交渉は、夫婦の協力義務の一つであると解釈されることがあります。そのため、正当な理由がないにもかかわらず、一方的に性交渉を拒否し続け、かつその他の夫婦としての共同生活(生活費の分担、家事・育児への協力、精神的サポートなど)も放棄している状態であれば、「悪意の遺棄」とみなされ、離婚原因として認められる可能性があります。
- 「悪意」の判断:「悪意」とは、単に性交渉がないこと自体を指すのではなく、「夫婦関係を破綻させる意図」や「義務を怠ることで相手に精神的苦痛を与える意図」があったと判断される場合に認められます。
- 具体的な状況:例えば、長期間性交渉を拒否し続けるだけでなく、生活費も入れない、家事育児も全くしない、会話も拒否するといった総合的な状況が重要になります。性交渉の拒否だけをもって「悪意の遺棄」と判断されることは稀です。
悪意の遺棄として認められるためには、性交渉の拒否だけでなく、夫婦としての義務を全体的に怠っている、という事実を客観的に証明する必要があります。
慰謝料請求の可否
セックスレスを理由に慰謝料を請求できるかどうかは、そのセックスレスが「婚姻関係を破綻させた原因」と認められるか、そしてその原因を作った側に「有責性(責任)」があるかによって判断が異なります。
- 慰謝料請求が可能な場合:
- 一方的な性交渉の拒否:正当な理由がないにもかかわらず、一方の配偶者が性交渉を一方的に拒否し続け、それが婚姻関係破綻の決定的な原因となった場合。
- 話し合いに応じない:性交渉の再開に向けての話し合いや努力を相手が一切拒否し、改善の兆しが見えない場合。
- 長期間にわたる拒否:上記の状況が数年以上にわたって継続している場合。
このようなケースでは、性交渉を拒否し続けた側に「有責性」が認められ、慰謝料を請求できる可能性があります。
- 慰謝料請求が難しい場合:
- 正当な理由がある場合:病気、性機能障害、高齢、多忙など、性交渉を拒否する側にやむを得ない正当な理由がある場合。
- 双方の合意や責任:夫婦双方に性交渉への意欲がない、あるいは双方ともに問題解決への努力を怠っていた場合。
- 拒否に至る原因が相手にある場合:相手のDV、モラハラ、借金などの問題が原因で性交渉を拒否せざるを得なかった場合。
このような場合、性交渉がないこと自体が「有責性」とはみなされず、慰謝料請求は難しくなります。
慰謝料請求が可能であるとしても、セックスレスを理由とした慰謝料の相場は、不貞行為による慰謝料に比べて低くなる傾向があります。これは、セックスレスが直接的な不法行為とはみなされにくいこと、また精神的苦痛の度合いを金銭的に評価することが難しいためです。
次のセクションでは、さらに複雑な問題である「セックスレスが原因で不倫してしまった場合の慰謝料請求」について解説します。
セックスレスが原因で不倫した場合の慰謝料請求について
セックスレスに悩み、その結果、夫婦以外の第三者と肉体関係を持ってしまった(不倫してしまった)場合、慰謝料請求はどのように扱われるのでしょうか。特に、「セックスレスが原因だったのだから、慰謝料は払わなくていいはずだ」と考える方もいるかもしれませんが、法律上の判断はそう単純ではありません。ここでは、セックスレスが不倫の原因となった場合の慰謝料請求の行方、減額や拒否の可能性について詳しく解説します。
不倫の事実は原則慰謝料発生の対象
まず大前提として、夫婦の一方が配偶者以外の第三者と肉体関係を持つ「不倫(不貞行為)」の事実は、原則として、不倫された側(非有責配偶者)に対する慰謝料発生の対象となります。これは、民法第770条第1項第1号の離婚原因「配偶者に不貞な行為があったとき」に該当し、夫婦の貞操義務に違反する行為だからです。
- 不法行為責任:不倫は、不貞行為を行った配偶者と、その不倫相手の双方に、共同不法行為としての責任が生じます。そのため、不倫された側は、不倫をした配偶者と不倫相手の双方、または一方に対して慰謝料を請求することができます。
- 慰謝料の目的:慰謝料は、不倫によって受けた精神的苦痛を償うためのものです。不倫という行為自体が、夫婦間の信頼関係を破壊し、大きな精神的ダメージを与えるため、慰謝料が発生するのが原則です。
したがって、「セックスレスだったから不倫した」という理由は、不倫の事実そのものをなかったことにしたり、不倫による慰謝料請求の根拠を完全に消滅させたりするものではありません。不倫は不倫であり、法的な責任が問われる行為であるという認識を持つことが重要です。
セックスレスが慰謝料減額事由となる可能性
「セックスレスだったから不倫してしまった」という主張が、不倫による慰謝料請求を完全に免れることはありませんが、慰謝料の金額が減額される要因となる可能性は十分にあります。家庭裁判所が慰謝料の金額を判断する際には、不倫に至った経緯や背景事情も総合的に考慮されるためです。
- 「誘発要因」としてのセックスレス:
- 長期間にわたるセックスレスが、性交渉を求めていた側の精神的負担となり、不倫に至る大きな誘発要因であったと認められる場合。
- 性交渉の拒否が一方的であり、かつ正当な理由がない、あるいはセックスレス解消に向けた相手の努力が全く見られなかった場合。
このような状況であれば、不倫をした側の責任が軽減されると判断され、慰謝料が減額される可能性があります。
- 減額される慰謝料の目安:
慰謝料の減額幅は、セックスレスの期間、拒否した側の態度、不倫が始まる前の夫婦関係の状態などによって大きく変動します。例えば、数年以上にもわたる正当な理由のないセックスレスであったり、何度も改善を求めたが相手が全く応じなかったりした場合は、減額幅が大きくなる傾向にあります。
- 裁判所の判断基準:
裁判所は、セックスレスの期間、性交渉の拒否の理由、夫婦関係全体の状態、不倫に至るまでの夫婦双方の努力や責任の程度、子どもの有無などを総合的に判断します。特に、「性交渉は夫婦の重要な義務」という考えが根底にあるため、正当な理由のない一方的な拒否は、慰謝料減額の有力な材料となり得ます。
不倫をした側が慰謝料の減額を主張するためには、セックスレスの事実と、それが不倫に至る誘発要因であったことを具体的に証明する証拠(性交渉がなかった期間を記した日記、性交渉再開を求めたが拒否されたことを示すメールやLINE、夫婦カウンセリングの記録など)を提示する必要があります。
慰謝料請求が拒否される可能性
セックスレスを理由とした不倫において、慰謝料請求が完全に拒否されるケースは非常に稀です。しかし、以下のような極端な状況下では、慰謝料の支払い義務が否定されることもあり得ます。
- 婚姻関係がすでに破綻していた場合:
- 不倫が始まる時点で、すでに夫婦関係がセックスレスだけでなく、長期間の別居、会話の全くない状態、経済的独立などにより、客観的に見て回復不能なほど破綻していたと判断される場合は、慰謝料請求が認められないことがあります。この場合、不倫行為は「すでに壊れていた夫婦関係を追認したに過ぎない」とみなされるためです。
- 性交渉の拒否に正当かつやむを得ない理由があった場合:
- 例えば、病気(精神的・身体的)、性機能障害、介護、過度な多忙など、性交渉を拒否せざるを得ない正当な理由があり、それが客観的に証明できる場合、不倫をした側の慰謝料支払い義務が否定される可能性は極めて低いですが、ゼロではありません。
これらのケースは限定的であり、不倫の事実は原則として慰謝料発生の対象であるという基本は変わりません。自己判断せずに、必ず弁護士に相談し、ご自身の状況がこれらの例外に該当するかどうかを確認しましょう。
有責配偶者からの離婚請求は原則不可
不倫をした側が「セックスレスだったから」という理由で離婚を求めたい場合、注意しなければならない重要な原則があります。それは、民法第770条第1項が定める法定離婚原因を自ら作り出した配偶者(不倫をした配偶者など)からの離婚請求は、原則として認められないという「有責配偶者からの離婚請求の制限」です。
- 原則:
- 不倫は、法律上の離婚原因(不貞行為)に該当するため、不倫をした側(有責配偶者)から「離婚したい」と請求しても、基本的には認められません。相手方(非有責配偶者)が離婚を拒否すれば、離婚することは困難です。
- 例外的なケース:
- ただし、以下のような極めて限定的な状況では、有責配偶者からの離婚請求が認められることがあります。
- 夫婦の別居期間が非常に長く、夫婦関係がすでに破綻していると認められる場合。
- 未成熟な子どもがおらず、離婚によって相手が経済的に極度に困窮しない場合。
- 相手方が離婚によって精神的・社会的制裁を受けることが少ないと認められる場合。
これらは「破綻主義」の例外的な適用であり、ハードルは非常に高いです。
- ただし、以下のような極めて限定的な状況では、有責配偶者からの離婚請求が認められることがあります。
つまり、セックスレスを理由に不倫をしてしまった側が離婚したいと望んでも、相手が拒否する限り、すぐに離婚できるわけではないということです。慰謝料の減額は交渉の余地があっても、離婚請求そのものは難しい場合が多いと理解しておきましょう。
次のセクションでは、セックスレスを理由とした慰謝料請求の具体的な相場と、その金額を左右する要素について解説します。
セックスレスによる慰謝料請求の相場と計算要素
セックスレスが離婚原因となり得る場合、そしてそれが原因で不倫に繋がった場合の法的な取り扱いについてご理解いただけたでしょうか。ここでは、セックスレスを理由として慰謝料を請求する場合の具体的な相場と、その金額を左右する様々な要素について解説します。
慰謝料の相場
セックスレスを理由とした慰謝料請求の相場は、不貞行為(不倫)による慰謝料に比べて、一般的に低くなる傾向があります。これは、セックスレスが直接的な不法行為とみなされることが少なく、精神的苦痛の度合いを金銭的に評価することが難しいためです。
- 離婚が成立した場合の相場:
セックスレスを主な理由として離婚が成立し、慰謝料が認められた場合、概ね50万円~200万円程度が相場となることが多いです。ただし、この金額はあくまで目安であり、個別の事情によって大きく変動します。
- 離婚が成立しない場合の相場:
離婚には至らず、セックスレスによる精神的苦痛のみを理由に慰謝料を請求する場合、その相場はさらに低くなり、数十万円程度に留まることが一般的です。
- 不貞行為による慰謝料との比較:
不貞行為による慰謝料の相場が、離婚の有無によって200万円~300万円程度(離婚に至らない場合は50万円~100万円程度)であるのと比較すると、セックスレス単体での慰謝料は低い水準にあることがわかります。
慰謝料の金額は、最終的には当事者間の話し合い、または裁判所の判断によって決定されます。
慰謝料の金額を左右する要素
セックスレスによる慰謝料の金額は、以下の様々な要素を総合的に考慮して決定されます。
- セックスレスの期間:
性交渉がない期間が長ければ長いほど、精神的苦痛が大きいと判断され、慰謝料が増額される傾向にあります。例えば、数ヶ月程度のセックスレスと、5年、10年といった長期にわたるセックスレスでは、慰謝料の金額が大きく異なります。
- 性交渉拒否の理由と態度:
- 一方的な拒否であるか:正当な理由がないにもかかわらず、一方の配偶者が性交渉を一方的に拒否し続けていた場合は、慰謝料が増額されやすくなります。
- 解消に向けた努力の有無:性交渉再開に向けて話し合いを求めたが相手が全く応じなかった、夫婦カウンセリングを拒否されたなど、解消に向けた努力を怠った場合は、慰謝料が増額される可能性があります。
- 拒否側の態度:性交渉を拒否する側の態度が、誠実さを欠き、相手を精神的に傷つけるものであった場合(例:暴言を吐く、嫌悪感を露わにするなど)は、慰謝料が増額される方向に傾きます。
- 夫婦関係の状況:
- セックスレス以外の問題:セックスレス以外にも、DV、モラハラ、経済的DV、生活費を入れないなどの問題があった場合、それらの要素も加味され、慰謝料が増額されることがあります。
- 婚姻期間:婚姻期間が長いほど、セックスレスによる精神的苦痛が積み重なると判断され、慰謝料が高くなる傾向があります。
- 夫婦関係の修復可能性:セックスレスによって夫婦関係が完全に破綻し、修復の見込みがないと判断される場合、慰謝料が増額されることがあります。
- 当事者の年齢・健康状態:
性交渉の拒否が、年齢や健康上の理由によるものである場合、慰謝料が減額される、あるいは請求が認められない可能性があります。例えば、性機能障害や重い病気など、やむを得ない事情がある場合です。
- 子どもの有無と年齢:
子どもの存在や年齢は直接慰謝料額に影響しませんが、子どもがいることで夫婦関係の破綻による精神的苦痛がより大きいと判断されることはあります。また、子どもがいるからこそ離婚に踏み切れなかった、といった事情が考慮されることもあります。
- 双方の収入・資産状況:
慰謝料の金額は、支払う側の経済力も考慮されます。相手に十分な資力がない場合、高額な慰謝料を請求しても現実的な回収が難しいため、減額されることがあります。
- 交渉の経緯・裁判の有無:
当事者間の話し合い(協議)で解決した場合よりも、家庭裁判所の調停、そして最終的に裁判で争われた場合の方が、慰謝料の金額が高くなる傾向にあります。これは、裁判の過程で精神的負担が増大することや、裁判所がより客観的な証拠に基づいて判断するためです。
これらの要素を具体的に証明するためには、セックスレスになった時期、性交渉再開を求めた履歴、相手の返答、夫婦カウンセリングの記録、日記、夫婦間のメールやLINEのやり取りなどが証拠となります。慰謝料請求を検討する場合は、これらの要素を整理し、弁護士に相談して具体的な見込み額と戦略を立ててもらうことが重要です。
次のセクションでは、離婚を回避し、セックスレス問題を解決するための具体的な対処法について解説します。
セックスレス解消に向けた対処法
セックスレスの問題は、放置すれば夫婦関係の破綻や離婚につながる可能性があります。しかし、正しいアプローチと努力によって、関係性を修復し、再び健全な夫婦生活を取り戻すことも可能です。ここでは、離婚を回避し、セックスレス問題を解決するための具体的なステップや相談先について解説します。
1. 夫婦での話し合いを試みる
セックスレス解消の第一歩は、何よりも夫婦間での率直な話し合いです。デリケートな問題だからこそ避けがちですが、これなしに解決は始まりません。
- 話し合いのタイミングと環境:
- お互いが冷静に話せる時間と場所を選びましょう。疲れている時や、感情的になっている時は避け、落ち着いて話せる環境を整えることが大切です。
- お酒の席など、軽い気持ちで切り出すのは避け、真剣に向き合う姿勢を示しましょう。
- 話し合いの内容:
- 相手を責めない:「なぜしてくれないの?」と相手を非難するのではなく、「性交渉がないことで、私はこう感じている」「夫婦として寂しさを感じている」など、自分の気持ちを主語にして伝えましょう。
- 相手の意見を聞く:性交渉を拒否している側に、その理由(心身の不調、ストレス、性的な不安、相手への不満など)を尋ね、耳を傾けましょう。相手の背景や気持ちを理解しようと努めることが重要です。
- 具体的な解決策を話し合う:問題の原因が分かれば、それに対する具体的な解決策を二人で考えましょう。例えば、性交渉の頻度や方法、時間帯、場所などを具体的に決めてみることも有効です。
- 夫婦関係全体を見直す:セックスレスは、夫婦関係全体のコミュニケーション不足や、精神的なすれ違いのサインであることも少なくありません。性交渉だけでなく、日々の会話、感謝の気持ちの表現、家事分担、デートの機会など、夫婦関係全体を見直すきっかけにすることもできます。
- 対策:
- 「義務」ではなく「愛情表現」として捉える:性交渉を義務と捉えるのではなく、夫婦間の愛情や絆を深めるための大切な行為として、ポジティブなイメージで話し合いに臨みましょう。
- 小さな改善から試す:いきなり劇的な変化を求めず、まずは手をつなぐ、キスをする、ハグをするなど、スキンシップを増やすことから始めてみるのも良いでしょう。
お互いが本音で向き合い、解決に向けて協力する姿勢を持つことが、セックスレス解消の第一歩です。
2. 専門機関(カウンセリング等)の活用
夫婦での話し合いだけではなかなか改善が見られない場合や、問題が複雑でどう切り出していいか分からない場合は、専門機関のサポートを検討しましょう。
- 夫婦カウンセリング:
- 目的:夫婦カウンセリングは、夫婦間のコミュニケーションの問題や、セックスレスの根本原因を探り、解決策を見つけるための専門的なサポートです。中立的な第三者であるカウンセラーが間に入ることで、感情的にならずに話し合いを進められます。
- 期待できる効果:
- 夫婦双方の本音を引き出し、誤解を解消できる。
- 性に関するデリケートな話題を、専門家のサポートのもとで話し合える。
- お互いの性的なニーズや不安を理解し、歩み寄りのきっかけを作れる。
- 性に関する知識や具体的なアドバイスが得られる。
- 相談先:性に関する専門カウンセリングを行っているクリニックや、民間の夫婦カウンセリング機関などがあります。
- 性機能専門医・婦人科医:
- 目的:性交渉の拒否が、性機能障害、ホルモンバランスの乱れ、更年期障害、性交痛などの身体的な問題に起因している可能性もあります。専門医の診察を受けることで、身体的な原因を特定し、適切な治療を受けることができます。
- 期待できる効果:身体的な問題が解決すれば、セックスレスが解消される可能性が高まります。
- 相談先:泌尿器科(男性)、婦人科(女性)など。専門の「性機能外来」を設けている病院もあります。
- 心療内科・精神科医:
- 目的:ストレス、うつ病、トラウマなどが原因で性欲が低下したり、性交渉に抵抗を感じたりする場合もあります。精神的な問題が背景にある場合は、心療内科や精神科医のサポートが有効です。
専門家の介入は、夫婦だけでは解決が難しい問題を客観的に捉え、適切な解決へと導くための大きな助けとなります。費用はかかりますが、離婚という選択肢を考える前に、一度検討してみる価値は十分にあります。
3. 離婚を検討する前にできること
セックスレスが長期化し、夫婦関係の修復が難しいと感じ、離婚を検討し始めることもあるでしょう。しかし、離婚は最後の手段です。離婚を決意する前に、まだできることがないか確認しましょう。
- 別居を試みる:
- 一時的な別居は、お互いの存在の大きさを再認識したり、冷静に夫婦関係を見つめ直したりするきっかけになることがあります。
- 性交渉が物理的に不可能な状況を作ることで、性的なプレッシャーから解放され、夫婦関係全体が改善する可能性もあります。
- 離婚に関する情報収集と弁護士への相談:
- もし離婚の可能性を考えるのであれば、まずは離婚に関する正しい情報を収集しましょう。本記事のような情報サイトや、無料法律相談などを活用することです。
- 弁護士への相談:離婚を検討する前に、一度弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、セックスレスが離婚原因となる可能性や慰謝料請求の可否、離婚に至った場合の親権や財産分与など、法的な側面から具体的なアドバイスを提供してくれます。これにより、ご自身の状況が法的にどのように判断されるのかを客観的に理解し、冷静な判断を下すことができます。
- 冷却期間を設ける:
- 感情的になっているときは、重要な決断を下すべきではありません。一定期間、冷静になるための冷却期間を設けることも有効です。
セックスレスは、夫婦間の深い問題であり、解決には時間と根気が必要な場合があります。しかし、諦めずに様々な対処法を試すことで、夫婦関係が改善し、新たな一歩を踏み出せる可能性は十分にあります。あなたの幸福な未来のために、今できる最善の行動を検討してみてください。
よくある質問(FAQ)
セックスレスとは具体的にどのような状態を指しますか?
セックスレスには明確な法的定義はありませんが、一般的には「正当な理由なく、夫婦間に性的接触がない、または極めて稀な状態が1ヶ月以上継続していること」を指します。病気や出産前後、単身赴任などの一時的な状況や、夫婦双方が合意している場合は含まれません。
セックスレスを理由に離婚はできますか?
セックスレスのみを理由として離婚が認められることは稀ですが、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚原因となり得る可能性があります。特に、正当な理由なく長期間性交渉を拒否し続け、かつセックスレス解消に向けた努力を怠った場合は、夫婦関係が破綻しているとみなされやすくなります。状況によっては「悪意の遺棄」と判断されることもあります。
セックスレスが原因で不倫した場合、慰謝料は発生しますか?
はい、セックスレスが原因であっても、不倫(不貞行為)の事実は原則として慰謝料発生の対象となります。不倫は夫婦の貞操義務違反であり、慰謝料請求の基本的な根拠となるからです。ただし、長期間の一方的なセックスレスが不倫の誘発要因であったと認められる場合、慰謝料の金額が減額される可能性はあります。不倫が始まる時点で夫婦関係がすでに破綻していたと認められるような極端なケースでは、慰謝料請求が拒否されることもごく稀にあります。
セックスレスによる慰謝料請求の相場はどのくらいですか?
セックスレスを理由とした慰謝料請求の相場は、不貞行為による慰謝料に比べて低い傾向にあり、離婚が成立した場合は概ね50万円~200万円程度、離婚しない場合は数十万円程度が目安となることが多いです。慰謝料の金額は、セックスレスの期間、拒否の理由や態度、夫婦関係全体の状況(セックスレス以外の問題の有無、婚姻期間など)、双方の経済力などを総合的に考慮して決定されます。
まとめ
本記事では、夫婦間のデリケートな問題であるセックスレスについて、その定義から離婚原因となる可能性、慰謝料請求の可否と相場、そして不倫に至った場合の複雑な問題まで、法的な観点から解説しました。
重要なポイントを振り返りましょう。
- セックスレスとは、正当な理由なく1ヶ月以上性交渉がない状態を指し、夫婦関係に精神的なすれ違いや不倫のリスクをもたらします。
- セックスレスは、単独で法定離婚原因となることは稀ですが、「婚姻を継続しがたい重大な事由」や「悪意の遺棄」として認められる可能性があります。
- セックスレスを理由とした慰謝料請求は可能ですが、不貞行為による慰謝料より相場は低く、拒否された側の有責性が問われます。
- セックスレスが原因で不倫した場合でも、不倫の事実は原則慰謝料発生の対象です。ただし、セックスレスが慰謝料減額事由となる可能性はあります。
- 問題解決のためには、夫婦での率直な話し合いが不可欠であり、必要に応じて夫婦カウンセリングや専門医のサポートを活用することが有効です。
セックスレスは、夫婦間の深い愛情や信頼に関わる問題であり、一人で抱え込むことは非常に辛いことです。しかし、適切な知識と行動があれば、問題を解決し、夫婦関係を再構築できる可能性も、あるいは納得のいく形で新たな人生を歩み出すことも可能です。
もしあなたがセックスレスに悩み、夫婦関係の今後について真剣に考えているのであれば、この記事がその一助となることを願っています。まずは夫婦で向き合い、必要であれば専門家の力を借りて、あなたの心と夫婦関係にとって最善の道を探してください。
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